2011年 10月 19日
Photo Stream ~ 森の奥の細い道 ~ 羽黒山出羽三山神社・山形県 |
2011_09_25_16:29
朱塗りの大きな門をくぐった。
陽はだいぶ傾いてしまい駐車場から門のあたりはまだ明るく照らされていたが、門を境に山の方は既に大部分が陰の中に入っていた。
杉の大木が整然と並ぶ森の奥の方へ長い石段が続いていた。
木立の隙間から差し込む光が石段まだらに照らしている。森の中は青く、幹を覆う苔や下草の緑がより深い色に見えた。
息を切らして石段を上ってくる何組かの観光客とすれ違った。
この時間に下へ降りて行くのは僕1人だった。
石段を降りてしばらく山道を歩くと細い滝があった。
岩肌をやわらかく伝う水の筋が薄暗い中に浮かび妙に艶めかしい。
しめ縄が掛けられた大きな杉の巨木は爺杉と呼ばれ樹齢が千年以上もあるらしい。
かつてはもう一本さらに大きな杉があったそうだが明治の暴風で倒れてしまったらしい。
実は倒れた杉が爺なのか婆なのかはっきりせず、便宜上残った方を爺にしたそうである。
いずれにしろ森の中に静かに佇む姿は千年の時の流れを受け入れた存在感があった。
国宝です。
爺杉の向こうに木造の塔があった。
彩色されない木色のままの五重塔はまるでそれ自体が森の中に立つ一本の巨木のように見えた。
「見事な塔やなあ」
後ろから声が聞こえて少し驚いた。
振り向くと痩せて小柄な老人が立っていた。薄手のジャンパーに綿のズボン、小さめのナップサックを肩に掛け、右手には丈夫な枝をそのまま利用して作られた杖を持っていた。
頭巾のような、つばのないトルコ帽子のようなものを被っていた。顔には笑顔皺が刻まれている。
どこかで会ったことのあるような、ないような・・・はっきり思い出せない。
老人は杖など必要がないくらい背筋が伸びた軽い足取りで僕の横を通り過ぎ、塔の方へ少し近づいて見上げた。
「今から300年前・・・、いや600年ほど前に建てられたそうやわ。こんな場所になあ」
と老人が言った。
格好や言葉からして地元の人とは思えず、「ご旅行ですか?」と聞いた。
「せや。なに、だいぶん昔に・・・6月やったなあ、いちどこの辺を歩いたことがありましてな、久しぶりにまた来てみたわけですわ。そんときは連れがおったんやけど、今はきままに1人旅や。それにしてもこれ国宝になったんか。以前来た時は古びたただの塔やったんだがね」
そう言ってからからと笑った。
杉の間から見える空がまだ明るいものの、森の中は少しずつ暗くなり始めていた。
「私はこれからこの先の羽黒山神社へ行くんやけど、おまんはどうされる?」聞かれた。僕らは塔を離れ山道に戻っていた。
「足を怪我していて車で待っている友達がいるので戻ります。上の出羽三山神社はさっき参拝しましたから」
「そうかそうか。ところで五七五は好きか?」
「え?俳句ですか?うーん、あまり興味はないですね」
「そうかそうか」と老人は少し寂しそうな顔をした。
老人は森の奥にある神社へ続く方へ、僕は石段の方へ歩き出した。
「・・・ 羽黒山」という声が聞こえた気がして振り向くと、向こうへ続いている一本道があるだけで老人の姿はなかった。
秋の森は蝉の声もしないのでとても静かだった。
一瞬風が吹き下草をさわさわと鳴らした。
石段を登り門を抜け駐車場に戻り、友人の待つ車に乗り込んだ。階段のせいで息が上がっていた。
僕は夕日に照らされた門を横目に車を発進させた。
「さっき携帯見てたんだけど、この辺り松尾芭蕉が通ったんだって」と友人が言った。
その名前を聞いた途端、不意に思い出せなかった顔と老人の顔が重なった。そうだったのか。
友達が続けた。
「『おくのほそみ道』にも出羽三山のことが書かれていて、、、その時の句が『涼しさや・・・』」
「涼しさや ほの三か月の 羽黒山」友人の言葉を遮った。
驚く友人に「さっき教えてもらったからね」と僕は言った。
国今年は卯年、月山の御縁年です。月のウサギ?
出羽三山神社
/* ----- 羽黒山 - 山形 - 2011 - Nikon D700 ----- */
by kidai_y
| 2011-10-19 21:16
| 写真:日本