2011年 12月 01日
Photo Stream ~ 2つの白河の関 ~ 旗宿・福島県白河市 |

2011_11_20_15:50
白河神社の周りに立っている杉の巨木からすっと雫が落ちてくる。
空は相変わらず忙しく色を変えていたが少しずつ雲の切れ間も広がっているように見えた。
時折差し込む西日が遠慮がちに残っている楓の葉を真っ赤に染めた。
「私がこの辺りを旅した時は白河の関が一体どこにあるんやらよう分からんかった。仕方なしにまずは奥州街道沿いの下野国と陸奥国の間にある白坂っちゅうところの境の明神に行った。昔から国境には明神様をお祭りしとったんや」
「今はここが白河の関とされているみたいですね。面影が全然ありませんけど」と僕は言った。
「白河藩主の松平定信さんが地元の歴史を調べてこの場所を白河の関跡だと決めたそうやけど、それはもっと後の話や。私らは白坂の宿でこの旗宿辺りにも昔からの境の明神があるて聞いて、山道越えて来たもんや」
老人は少し目を細めた。

「そういえば『おくのほそ道』の最初に「白河の関を越えたい」みたいなことが・・・」
「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず・・・やな」
僕が言い終わらないうちに老人はスラスラとそらんじた。
「それで、念願かなって白河の関に辿り着いて、松尾さんはどんな句をよんだんでしょうか?」
陸奥の入り口に立ち、いよいよこれから東北の旅が始まる、そんな時何を感じたのだろうか、とても興味があった。旅の始まりの高揚感は僕にも何度か経験があるからだ。


老人は杉の木立を見上げて遠い目をしながら言った。
「詠んでない」
「え?」
「一句も詠んでない」
「はあ・・・」
「あんたも見て分かるやろ。こんな雑木林ん中に立っとってもちっとも歴史を感じんわい。今でこそお墨付きがあるみたいやけど、昔はそんなもんもなかったしな。地元のもんが適当にここが白河の関や言うてるのかと話半分で聞いてたわ。まあ弟子はいろいろと調べてたみたいやけど」
騙されたと思って詠んどけば、とちょっと残念そうに老人は言った。
「分かりますよ。僕も旅先で同じような経験があります。後で有名な場所だと知って、もう少しちゃんと見ておけば良かったって思うことありますよ」と僕は言った。
(つづく)
(注・・・芭蕉がおくのほそ道で白河を歩いたのは1689年。松平定信が白河の関を現在の旗宿白河神社付近に決定したのは1800年)
/* ----- 白河市 - 福島県 - 2011 - Nikon D700 ----- */
by kidai_y
| 2011-12-01 23:38
| 写真:日本

