2007年 07月 01日
Piece.1 「笑顔」 / アジアのかけら 1998~2001 |
観光範囲を外れ、足首くらいまでの雑草の中に一筋、人の往来により踏み固められて草が生えなくなっている細い道を少し緊張しながら歩いていた。
今では多くの観光客が訪れる遺跡とはいえ、数十年前までは内戦の只中にあった場所である。ルート外には除去されていない地雷が埋まっていないとも限らない。
アンコール遺跡群の中の1つ、タ・プローム。
この遺跡は東西約1㎞南北約600mの外壁に囲まれているが、寺院遺跡があるのはその中心部の約300m四方である。この範囲内に遺跡の見所は揃っていた。
しかし僕はそれとは別に、どうしても見たいものがあった。昔何かの写真で見た樹に覆われた顔だった。アンコールトムのバイヨン寺院に並んでいるような石の顔に樹の根や枝葉が絡み付いているその写真を見たとき、僕は時間の流れを強く感じた。自然の強さと人の力の脆さみたいなものも感じたのだ。
東門で土産物を売っていた子供たちに、目指すそれは北門にあると教えてもらってから強い日差しの中、既に1㎞以上歩いていた。右手に土色に濁った沼が見えてきた。近くには水牛が4、5頭のんびりと草を食み、向こう岸には子供たちが枯れ枝で作った筏に乗って水遊びをしていた。暑さが限界近くに来ていた僕は思わず沼に飛び込みそうになった。今までの緊張がばかばかしくなるくらいのどかだった。
「ハロー、ハロー!」
そう口々に言いながら子供たちが着いて来たので僕は「こんにちは」と日本語で返事をして、手を振った。
やがて、傾き崩れかけた北門に辿り着いた。
その上の顔も石組みが全体の歪みのせいで隙間だらけになり、その隙間に根が食い込み絡み付いていた。枝葉がまるで髪の毛のように見えた。子供たちはツタや根を頼りに器用によじ登っていたので僕も登ってみることにした。間近でみる顔は遠目に見るよりも崩壊が進んでいてあと何年もすれば本当に倒れてしまいそうだった。
だがもしも崩れ落ちてしまったとしても、そのままの姿でこれから先もここに残り、樹は伸びつづけ、子供たちも成長していくのだろう。
こんな屈託のない笑顔のままで。
( 1998 / Siem Reap / Cambodia )
※)1998~2001年の間に撮った写真に文章をつけたものです。
今までに写真展のオマケなどで読んだ方もいるかもしれませんが、今回はカラー写真付きにしましたので、勘弁してください。
カラー写真といってもホームページに上げてる写真がメインになってます。甘い目で見てください。
by kidai_y
| 2007-07-01 23:47
| 旅:文章