2007年 08月 29日
旅文 01-09 「プノンペンの夜 前編」 |
宿の横に隣接するビルの1階にあるインターネット屋で2、3通メールを送受信した。通信速度がやたらと遅いので思いの他時間がかかる。玄関外に置かれている長椅子には3人の欧米人が座ってパソコンが空くのを待っていた。すぐ先に見える、交差点の角に建つホテルのレストランは割合明るくて賑やかだが、一本細い通りに入ると街灯も殆どなくて、夜になると真っ暗になる。この辺りもそうだ。
中々ページが開かないのでイライラして画面を眺めていたら、反対側の机のパソコンを使っていた女の子が立ち上がって店番をしている女性に料金を払い、僕の横にやって来て
「あのー、」
と控え目な様子で声を掛けてきた。一体どこの誰だと思いながら顔を上げその女性を見た僕の顔を確認して
「ですよね、やっぱり。こんばんは」
と言った。濃い青色のノースリーブのワンピースを着た、背の小さい眼鏡の女の子だった。
「いつこっちに来たの?私らは昨日」
僕はあぁとかえぇとか言って誤魔化しながら、バンコクのカンボジア大使館にいた女の子だということを急いで思い出した。顔も少し日に焼けていたし、何よりあの時の無性別な東南アジア貧乏旅行的服装とは掛け離れた、ワンピース姿という女性的な格好だったので記憶の中の彼女と目の前の彼女がすぐに結びつかなかったのだ。
「それじゃ、また」
立ち話をするような状況ではなかったので一通り再会の挨拶が済むと、彼女はガラスの嵌ったサッシ戸を開けて外に出ていき、入れ替わりに外で待っていた白人女性が入ってきた。僕の目の前のディスプレイは既にページを表示し終わっていた。
ネット屋を出て、隣接する宿の暗い階段を上がり、通りに面したベランダ状の通路に出ると、赤と青のぺらぺらのプラスチックの椅子を向かい合わせに並べて、前の椅子に足を乗っけて涼んでいる宿のオジサンがいた。
彼の手前でパイプ椅子に座ってぼんやり下の通りを眺めている女の子がいて、誰かと思えば青いワンピースの彼女だった。僕に気が付いて
「あ。ここに泊まってるの?」
少し驚いた顔をして言った。僕も同じく驚いたと言って、近くにあったぎしぎしいうパイプ椅子に腰を下ろした。
「え?黒い?焼けてる?そう?シミになる?うーん、やばいかも」
「隣のキャピトル(ホテル兼食堂兼旅行代理店)でベトナムビザを取ってて、今それ待ち」
「移動が早いって?あの次の日にラオスビザも取れちゃったから。シェリ、シェムリアップは2日で。4人でタクシーシェアして、アンコールワットとか有名な所、1日で見ちゃったから。だってそんなに長く遺跡見たってしょうがないでしょ?え?5日券買うの?あ、そう・・・」
僕は3回目だというのに、5日券を買うつもりでいた。アンコールワットには1日券、3日券、5日券の3種類の共通入場券があるのだ。僕はシェムリアップには明朝ボートで行く予定なのだが、彼女らはあちらからこちらへ何で移動したのか気になったので聞いてみた。
「ボートじゃなくてバス。安かったから。(シェムリアップから)ここまで7時間くらいかかったよ。(タイ国境からシェムリアップまでの道路に比べ)結構道悪かったなあ。でもほとんど寝てたけど」
そういえば、もう1人の子はどうしたのだろう。
「友達?ああ、それがさ、さっきご飯食べてた時にそこにいた白人の男の人とちょっとしゃべったりしてたんだけど、あの子そのまま一緒に飲みに行っちゃった。信じらんない。その人?よく分かんない。こっちで仕事してるとか言ってたけど。そうよねえ、なんかちょっとやばいよねえ」
う~ん。
「今日のお昼はバイタクであちこち観光してたんだけど、バイタクのお兄ちゃんが占い師のとこに連れてってくれて、占ってもらったの。なーんか怪しいんだけどねえ。そしたら、貴方は早いうちに結婚するでしょう、とか言われちゃった。どうしよう、就職してすぐ結婚したら、絶対旅行になんか行けなくなっちゃうよ。え?相手?きっともうすぐ見つかったりするのよ~」
「今何時?あ、もうそんな時間か。あの子8時頃に帰ってくるって言ってたんだけどなあ」
(続く・・・・・)
(このときプノンペンでは1枚も写真を撮っていません。次の写真は、1998年に撮った写真です)
by kidai_y
| 2007-08-29 23:59